プロポリス

ミツバチの神秘的な生命

 ナタネ、レング、サクラと春の花が咲き乱れ、花盛りの季節を迎えると、ミツバチの活動はがぜん活発になります。
 ひとつの巣に数千から数万もいる働きバチは、いっせいに野山に散って、花から花へ渡り歩き、花蜜を吸っておなかの中の蜜嚢に蓄えたり、花粉を後ろ肢に集めたりして巣に運びます。その量は30〜50ミリグラム、自分の体重の半分に達する量といわれます。
 巣に戻った働きバチは、入り口のところに待機しているミッバチに囲まれて、あのミツバチのダンスを披露します。「こんなにたくさん採ってきたよ」と自慢しているようであり、また、収穫の喜びを皆で分かち合っているようにも見えます。踊り疲れたミツバチは門番役の働きバチの監視を受けながら、花粉を巣房に落とし、花蜜を口移しで若い働きバチに
与えて貯蔵室に蓄えてもらいます。こうして、ふたたび花を求めて飛び立つのです。
 ミツバチのダンス、これは花のありかを仲間に知らせるための、コミュニケーションの手段といったらよいでしょうか。このことを長年研究してノーベル生理医学賞を受けたドイツのフォンーフリッシュ博士は、このダンスは「ミツバチの言語」だとしています。
 ダンスには二種類あります。ひとつは右または左に回って踊る円舞、もうひとつは8の字を描きながらの尻振りダンスです。蜜のありかが50〜60メートル圈にあるときは円舞、100メートル以上だと尻振りダンスをするのです。このダンスを見ていた仲間は、踊る蜂に体をすり寄せ、蜜のにおいをかぐと、同じにおいを求めて飛び立っていきます。
こうやって、仲間と情報を交換しながら、巣と花の間を一日に何回も往復するのです。しかも、働きバチは、どの花がいつごろ花蜜を盛んに分泌するかを学習していて、その花が蜜を分泌しない時間にはけっして花を訪れることがないというのです。
 なんと利口な生物なのでしょう。

ミツバチの生態

 ところで、巣の中では、一匹の女王バチが一日に1500個の、ときには3000個もの卵を産み続けます。この卵の量は女王バチの体の重さぐらいになるといわれています。
将来働きバチ(もちろん雌)になる卵には、貯精嚢から輸精管を通して精子を送り出して受精卯とし、将来雄バチになる卵には精子をかけずに産み分けていくのです。巣房の大きさを肢で測りながら、小さな巣房には精子をかけ、大きな巣房は卵を産み落とすだけというようにして、雌雄を産み分けます。
 将来、女王バチになる卯は王台という釣り鐘型の巣房に産みつけられます。最初はほかの働きバチと同じ卵です。ところが卵が孵化して幼虫期に与えられる食物の違いで、形の違う女王バチになるのです。その食物とは、あのローヤルゼリーです。この特別食のおかげで、体がひと回り大きなミツバチとなり、女王物質といわれるフェロモンを分泌して働きバチの生殖能力を抑え、そして自分の体重ぐらいの量の産卵を毎日行う女王バチになるわけです。
 女王バチが暗い巣の中でひたすら卵を産み続けるかたわらで、せっせと蜂の子を育てるのは、若い働きバチです。彼女たちは、群れになって卵を温めたり、孵化した幼虫に蜜に花粉を混ぜた食物を与えたりします。少し年上の働きバチは巣をつくり、もう少し年上の働きバチは、巣房の中に塵ひとつ落ちてないように清潔を心がけ、病気で死んだ蜂を巣の
外に運んだり門番をしたりと分業体制をしきながら、文字どおり働き続けるのです。
 働きバチの仕事は一生定まっているわけではありません。年をとるにしたがって仕事が
変わっていきます。
 羽化して1〜3日は巣を保温する仕事、3〜14日は育児、14〜18日は巣づくり、蜜の貯蔵、18〜21日は巣内の温度管理、清掃、門番、21日以上は蜜や花粉の採集の仕事をします。

 

 いったいなぜ、このようなことが起こるのでしょうか。これは長いこと謎とされていましたが、今では幼若ホルモンによることがわかっています。幼若ホルモンの濃度が高くなるにつれ、内勤から外勤へと仕事が変わっていくのです。
 まるで、ミツバチには知能があって、社会のルールを理解しているような振る舞いです。ほんとうに不思議ですね。
 それではその間、いったい、雄バチはなにをしているのでしょう。
 雄の蜂が産まれるのは時期があって、年中いるわけではありません。花盛りを迎える頃から、新しい女王バチの誕生に先がけて産まれはじめ、その数は数百匹からせいぜい2、3000匹といわれます。働きバチよりグンと数は少ないのです。
 産まれた雄バチは、巣の中ではこれといって仕事がありません。働きバチが蓄えた食物をとりながら巣の中をうろうろしているのです。
 とはいえ、彼らには大切な仕事が残されています。新しく女王が誕生したあかつきには、その中の数匹が、女王の交尾の相手を務めるという役を担っているのです。
 このように、ミッバチの世界は一匹の女王バチを中心に、それぞれが役割を担って分業し、秩序ある共同生活をしています。人間の社会生活としばしば比較されるのも、こんなところに理由があるのでしょう。
 それにしても、もっと私たちを驚かせるのは。ミツバチの「種の保存」にかける執着心とでもいったらよいでしょうか。
 そのひとつが、ミツバチの結婚です。
 女王バチが産まれて数日もすると、発情期に入ります。たっぷり栄養をとって誇らしげな女王バチは、やがて大空めがけて飛び立ちます。1日に1〜3回の飛行を行い、交尾のチャンスをうかがうのです。
 また、その頃から。雄バチも、巣から自由に空に舞いはじめます。そして大空を舞ううちに、雄バチの集合場所にたどり着きます。そこにはほかからもたくさんの雄バチが集まってきます。こうして、それまで女王バチに興味を示さなかった雄バチも発情期を迎えるのです。
 すると、今度は女王バチが雄バチの集合場所の近くを飛び回り、雄バチを誘うのです。それを見た雄バチはいっせいに女王の後を追います。どこまでも、どこまでも追い続けるのです。体力のないものは途中で脱落してすごすごと巣に引き上げます。やがて、体力のある強い数匹の雄バチが女王バチに追いついて、空中で交尾をします。
 大空での壮大な結婚といえるでしょう。
 こうしてありったけの力を誇示した雄バチは、交尾をした後、力尽きて死んでいきます。わずか3ヵ月の命です。
 一方、受精した女王バチは意気揚々と巣に戻り、産卵に入るのです。
 女王の相手役はたった数匹の雄バチなのに、数百匹から1000匹余りの雄バチが候補として控えているのは、その中から「種の保存」にもっとも適した雄バチを選ぶためだったのです。

 ところで、この女王バチを産んだ母親の女王バチはどうしたのでしょう。
 女王バチの寿命は3年から5年といわれています。だからといって、新しい女王バチが誕生した後も巣にとどまっているわけにはいきません。巣には女王バチは一匹でなければならないのがミツバチの世界の原則です。
 母親の女王バチは、新しい女王バチが誕生する前に、今まで世話をしてくれた働きバチといっしょに巣を離れます。そして、働きバチが新しくつくった巣に居場所を決めるのです。これがミツバチの世界の憲法で、例外は許されません。
 ふつうなら、子供が巣立ちをするところですが、その点が人間やほかの動物の世界と違って、哀れです。
 もっとも、あれだけ一生懸命働いた働きバチは体もぽろぼろになって、35日くらいで行き倒れて草むらでひっそりと死んでいくといいますし、「夫」にはなれなかった雄バチも、巣には戻ったものの、晩秋に、食物が不足してくると巣を追い出され、ひっそりと息絶えるといわれます。
 花から花へと飛び回り、甘い蜜を運ぶミッバチには、こんな隠されたドラマがあるのです。ミツバチに関する研究はそれこそ古代ギリシアや古代エジプトの時代から盛んですが、わずか、15〜20ミリの小さな体にたくさんの生命の不思議が詰め込まれているからこそ、人は興味を引いたのでしょう。

ギリシア神話の中のミツバチ

 人間がこの地球に誕生したのは、今から約400万年前といわれますが、ミツバチはそのもっと前、6000万年前には地球に生息していたといわれ、約3500万年前の化石が発見されています。
 虫媒花といって、昆虫に受粉をゆだねている植物を訪問する訪花昆虫として、ミツバチは、ずっと地球に緑を広げる役をしてきたのでした。しかも、それだけでなく、私たち人間に人類最初の食品のひとつといわれる、はちみつを与えてくれたのです。
 その最古の資料が、およそ7000年前に描かれたといわれる、スペインのバレンシア地方にあるラーアラーニャの洞窟で発見された新石器時代の壁画です。
 これは、1919年に発見されたものですが、鹿や山羊を弓矢で射る場面を描いた壁画の脇に、崖からつるされた三本のロープを壷をかかえてよじ登っていく人と、ロープにぶら下がってミツバチの巣に手を入れて蜜を採集している人とが描かれているのです。その周りには数匹のミツバチが飛んでいます。はちみつと生活のかかわりがわかる絵です。
 さらに、古代エジプトでは、ミツバチの女王バチが王座のシンボルに使われていました。
カルナク神殿のオベリスクにはミッバチの彫刻が見られます。
 ミツバチの学名はアピスといいますが、これはそもそも、古代エジプト人が崇めていた雄牛の姿をした神の名なのです。死んだ雄牛から復活したのがミツバチと考えられていたのです。
 しかも、今から4000年ぐらい前の紀元前2000年には、すでにミツバチは家畜の仲間入りをして、養蜂が行われていたといわれます。神殿の壁画などには、巣分かれした蜂を水瓶に巣づくりさせて飼い、蜜を採集するために、この水瓶を煙でいぶしてミツバチを追い出しているところや、蜜を瓶に集めて封印しているところなどが描き出されていま
す。
 あのギリシア神話には、全智全能の神ゼウスが、はちみつや山羊の乳、牝牛などの肉で育てられたというくだりがあります。しかも、ゼウスの曾孫にあたり、アポローツとキュレーネの子供であるアリスタイオスは農牧の神であり、養蜂の神で、ミツバチの飼い方やはちみつの採集の仕方を人間に広める役割を担っていたといいます。
 神話にも登場するくらいですから、ミツバチは、かなり古くから家畜として飼育されていたことが分かるでしょう。
 この養蜂神アリスタイオスにはおもしろい話かあります。
 彼はあるとき竪琴の発明者ともいわれるオルペウスの妻・エウリュディケーに恋をします。そして川べりを散歩していた彼女を襲おうとするのです。驚いたエウリュディケーは逃げまどううちに毒蛇に喘まれ亡くなってしまう。悲しんだオルペウスは、その後を追って冥界へ赴きます。オルベウスのいなくなったトラーキア地方には疫病が流行り。アリス
タイオスの飼っていたミッバチも死んでしまいます。これはオルペウスとエウリュディケーの咎めだと知ったアリスタイオスは、彼らをあつく祭り、母・キュレーネと判官プロメテウスのとりなしによって、ミツバチを再生させ、また養蜂を広めていくというのです。
 その後、アリスタイオスは海の主神ポセイドンの曾孫で、テーバイの都を建てたカドモスの娘、アウトノエーと結婚して、アクタイオーンを産みます。女神アルテミスの沐浴をたまたま目にしたために怒りをかって牡鹿にされ、飼い犬に噛まれて哀れな最後をたどったのが、このアクタイオーンです。
 そのほか、ギリシア神話の中には、はちみつを水で薄めると、わずかに含まれている酵母が発酵して蜜酒ができるのですが、これは「ミート」と呼ばれ愛飲されていたという話も出ています。新婚旅行のことを(ネムーン、つまり蜜月といいますが、これは、古くゲルマン民族の間で新婚期間の1ヵ月、蜜酒を飲んで暮らす習慣があったことから呼ばれるようになったといわれます。

 いずれにせよ、古代ギリシアではミツバチの絵柄の貨幣がつくられていますし、哲学者のアリストテレス(BC384〜322)は、ミツバチの研究をしてその著『動物誌』にも取り上げています。いかにミッバチがその頃の生活に重要なものであったかが、歴史を通してもわかります。